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と、また話は逸れてしまったが。
その漫画研究同好会の部室は、いわゆる校庭の隅に立っているプレハブ小屋というやつだったのだ。これは、漫研が小さな同好会だったからではなく、多くの部活が同様の小さな部室しか与えられていなかったのだと明記しておく。プレハブ小屋の並ぶ一角を私たちは部室棟と読んでいて、その一番隅の小さな一室で私は三年間漫画を描いていたというわけだ。
その漫研の部室は。
不思議なことに、入ってすぐ右手側の壁が、何故だか真っ青に塗りつぶされていたのである。
青い、青い――まるで空のような綺麗な青い壁だった。触れるとざらざらしていて、あちこちおざなりな感じでデコボコしている。どうにも、壁を超適当にペンキで塗って塗りたくったかんじだった。コンコン、と試しに叩いてみるとどこか軽い反響音が返ってくる。壁がコンクリートではなく、薄い木の板が張られているだけのただの衝立のようなものだとすぐち気がついた。それが、右手側一面に聳え立っているのである。
『ねえ、千穂先輩。この壁なんなんですか?めっちゃ邪魔なんですけど』
ある時、私は部活がない時も部室に入り浸っていた一人の先輩に尋ねてみた。
『なんか変だなあとは思ってたんですよね。だって、他のトコと比べてうちの部室だけやけに狭いじゃないですか』
そうだ。漫研の部室は、異様に狭かったのである。それもそのはず、その青い壁が部室の丁度まん中あたりに聳えたっているせいで、実質向こう側のスペースを一切使えず、私達は小屋の半分だけしか利用することができていなかったからだ。
しかし、よくよく考えれば奇妙なのである。漫研も他の部活も、プレハブ小屋を一軒まるごと部室にしている(極めて小さな小屋ではあるが)。出入り口の戸は、どの小屋にも二つ並んでついていて、漫研の部室も同じであるべきだったのだが。
何故だか、この部室のプレハブ小屋だけ、入り口が一ヶ所しかないのである。
私が見たことのない、青い壁の向こう側に繋がるであろうドアが――この小屋にだけ、存在していなかった。塗り込めたわけでもなく、塞いだわけでもない。なんせ無いのは窓も同じ。なぜか、小屋の右半分だけ、ドアも窓もなく、内部も青い壁で仕切られて出入りできないようになっているのである。
まるで、向こう側にあるものを封じて――否、なかったことにでもしようとしているかのようだった。
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