あおい、あおい。

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『こんな壁がなければ、もっと本とかいろいろ置けるのに。ねえ、この向こう側には何があるんです?』  私が問いかけると、千穂先輩はとてもおかしそうに笑って見せた。 『あー、それ?それねえ、ずっと昔からあるみたいなのよね。少なくとも私が入部したときにはもうあったなあ』 『そうなんですか?』 『そうそう。その向こうにはね、悪霊が封印されてるってハナシ。ありきたりだけど、話聞きたい?』  悪霊とか、なんてそれテンプレ。この学校の七不思議のひとつかなにかだろうか、と呆れたが、私は“聞きたいです”と返事を返した。ぶっちゃけると暇だったのだ、単純に。 『W市って、昔は山だったって話は聞いてる?この学校も古いけど、この学校ができた頃は学校の敷地に隣接して小さな山…ていうか丘?があったんだってさ。まあすっごい田舎だったしね。まあ今でも田舎っちゃ田舎か』  W市、とはこの学校が建っているこの場所のことだ、念のため。  そして、この学校が戦前からあったというのも結構有名な話である。こんなド田舎だ、戦火に焼かれず残ってもなんらおかしなことはないだろう。 『その丘がまあ、脆かったらしくて。しょっちゅう土砂崩れとか起こしてくれちゃったんだって。で、学校の敷地の一部が埋まっちゃったこともあったのよ。…その土砂崩れに、木造の小屋が巻き込まれてね。そこ、体育倉庫だったらしいんだけど…女の子が一人、小屋ごと潰されちゃったんだってさ』 『うへぇ…』 『でね。女の子は、すぐには死ねなかったらしいの。土砂で埋まって、潰れかけた小屋の中で出るに出られず…ずーっと閉じ込められてたんだって。何日も何日も…十日以上過ぎてから、彼女はやっと助け出されたらしいんだけど。…死因は圧死でも怪我でもなく、餓死だったらしいわ』  なにそれ、惨い。私は思わず顔をしかめる。そんなに苦しんで苦しんで死ぬなら、一瞬で瓦礫に潰された方がどれだけマシだったことだろうか。  そしてピンときた。まさか、その体育倉庫とやらが立っていた場所というのが――。
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