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第1章
ガタ、ガタッ、ガタン!
小弥太がたてつけの悪い引き戸を、しばらく苦労して開けると、寝っ転がった侍が面白そうにこちらを見ていた。
そこにいたなら、開けるのを手伝ってくれてもいいだろうによ、と気を悪くしながら小弥太は聞いた。
「あんたが、庄屋さんとこの、遠縁のひとか」
遠縁だとは言いつつ、庄屋はあまりこの人を歓迎してはいないことを、小弥太は少年ながら感じていた。だいいち、庄屋の遠縁がお侍というのも変な話だ。
「遠縁か」面白そうな顔を、すこしゆがませて侍が答えた。まだ若い感じがする。
着流しの襟を直しながら、侍があぐらで座りなおした。
「まあ、そうかな。お前は?」
「おれは小弥太。庄屋さんからお世話するように、って言われた」
「そうか、よろしく頼む」
「……」
「……?」
「おさむらいさんにも、名前くらいあんだろう」
小弥太から気の強い瞳を向けられた侍は、楽し気に目を光らせた。
「お前、面白いやつだな。そうだな……今は……あまり名乗りたくなくてな……」
ぽりぽりと顎をかいているその顔は、すこし髭が伸びかかっているが品がなくもなかった。
「そうだ。お前、私のことは……」
にやりと笑った。
「先生と呼べ」
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