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「先生、聞いた事ねえのか。働かざる者、食うべからずって」
嫌味を言ったのは、しばらくの日が経った頃だった。言った小弥太自身は、その言葉に先生が食いついてくるとは思っていなかった。
「ああ、聞いた事くらいはあるな」
「やっぱりお気楽だな。おれなんかちいせえ時から庄屋に言われてる」
「ふむ。小さいときから。そういえばお前、親は」
「…………」
先生は、ちらりと明り取りに目をやって、そうか、と言った。続けて「手がお留守だぞ」と言った。小弥太は聞こえるように舌打ちをした。
「小弥太、働かん者は、食ってはいかんかね?」
「当り前さ。働いて、その代わりにおまんまを頂けるのさ」
「しかし、食わんと生きていけんからな」
「じゃあ、働かねえと、生きちゃあいけねえんだよ」
「では、赤子はどうだ? 働かなくてもおまんまを食わせてもらえるぞ」
「そりゃあ、そのうち働いてくれるからだよ」
「なるほど、お前、存外に聡いの」
「ゾンガイってなんだ?」
「では、動けなくなった年寄りはどうだ?」
「十分働いてくれたからだよ」
「なるほどなるほど。では、病人は? けが人は?」
「……治ってくれるのを待つ間はいいんだよ」
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