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「では、待っても治らない病人は? 食ってはダメかね?」
「それは……」
待っても治らない病人。治らない。
(もう、だめだから……)
一瞬追憶につかまりかけた小弥太を先生の声が引き戻す。
「どうだ? 食べてはいかんかね? 生きてはいかんかね?」
しらねえよ、と言いかけた小弥太の目に、今まで見たこともないような穏やかな先生の顔が入ってきた。
「なあ、小弥太。みな、昔から口をそろえて《働かざる者食うべからず》と言う。私もそれは当然だと思っていた。働くからこそ食っていい。つまり生きていい。《働く》を差し出すから、《生きる》を許される」
「……」
「だがな。広ーい世の中にはそうではない考えもある。ただただ生きていい、なにがなんでも生きていい、どんな人間でも、働かなくてもひたすら生きていい、という考えだ」
小弥太は首を傾げた。
「生きていい……って、誰が決めるんだ?」
先生は笑った。
「まったくだな。そう……まあ神様だ。神様が言うんだ。お前ら生きていいぞ!と。この神様は、働くことと生きることを引き換えにしない。人は何をせずとも生きていてよいし、生きているべきなのだ」
「でも、働かなかったら、ほんとのところ、おまんまにありつけない」
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