第1章

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「そうだ。実際の話は働かずに生きることは難しい。だがな、それでもな、自分がどんな病気をしようとも、ケガをしようとも、年寄りになろうとも、《お前は生きていていい》と神様に言ってもらえること。神様が約束してくれること。このことはひどく大事なんだ」 「神様の約束……」 「だからと言って、働かなくていいというわけではないぞ。順序が逆になるだけだ。働くから生きていいのではなく、生きていいと言ってもらえたことに感謝して働く。生きることの恩返しとして働く」 「働くのは神様への恩返し?」 「そうだな。神様と、生かしてくれたものすべてへの恩返しかな」 「……先生も、もうちょっと恩返ししたほうがいいよ」 こりゃまいった、と額を叩いてから先生は言った。 「さて、そろそろ日も暮れるな。お前の恩返しの時間も終わりだ」 先生は珍しく戸口まで送ってくれた。里山に夕焼けが輝いている。 「先生……」 「ん?」 「さっき言ってた、《生きていていい》っていう約束は、おれにも神様はしてくれるのかい?」 「当り前だ。この世の人全部との約束だ」 「じゃあ……おれのおっかさんも?」 「もちろんだ。生きづらくったって、生きていていい」 「うん、わかった。……また明日!」 「ああ、オイ」 走り出した小弥太を、これまた珍しく先生は呼び止めた。 「あのな、小弥太」 「うん?」 「神様の約束のことだがな」 「うん」 「あれを、お前が大きくなるころ《権利》と呼ぶ日が来るかもしれない」     
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