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次の日も、小弥太は先生の所に行った。先生は、少しこころここにあらずという感じで、いつもならポンポンくる仕事の指示が遅かった。
「先生、今日はどうかしたか?」
「……うむ」
「腹でもいてえか?」
「ふん。まあ……そろそろ潮時か、と思ってな」
「しおどき?」
きょとんとする小弥太に、ふいに先生は口に指を当てた。
「しっ。小弥太。お前、そこの奥に入ってろ」
「ここ?」
「そうだ。お前が作ったそれの後ろだ」
土間の一角を隠すように作られた板は、先生が命じて小弥太自身が作ったものだ。
「でも、なんで?」
「いいから。声を出すんじゃないぞ」
なんなんだよ、と思いながら小弥太は板の後ろに隠れる。隙間から見ると、先生が大刀のさやをつかんでいた。さすがに息をのむ。
(なんだ? なんだ、なんだ?)
バタン!
そう思う暇もなく、小弥太がいつも苦労している引き戸を蹴り倒して、刀を構えた侍が飛び込んできた。3人だ。
真ん中にいる侍が、初めになにやら長ったらしい名前のようなものを言ったが、小弥太には聞き取れなかった。たぶん、先生の名前なのだろう。続けて右の侍が、悲鳴のような聞き苦しい声で「テンチュウ!」と言った。なんのことやらわからない。
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