1人が本棚に入れています
本棚に追加
そういえば、3人組が立っていたのは、小弥太が掘らされていた穴の上だった。小弥太の知らぬ間に、ふたがつけられて土がかけられていたが、先生はこんな仕掛けを用意していたのだ。
土煙の向こうで先生は、小弥太の耳になじみがある笑い声を立てていた。
「ハハハハハ! 私にお前らは殺す《権利》があるかどうかはわからんが、私の生きる《権利》はすこぶる強いのでな。死んでやらん」
首をこちらに向ける気配がした。
「その穴、存外に深い。底に泥もしいてある。助けが来るまでそうしていろ」
助けを呼びに行ってやれ、ということだな、と小弥太は解釈した。
先生の、優しい声がした。
「ではな。私はこれから存分に働く。生きていたらまた、だ」
ガタンと音がして、屋内が少し明るくなった。透かして見るとどうやら明り取りの窓に、人が通れるよう細工をしてあり、そこから先生は出て行ったようだ。
(またな、先生。今度はちったあ、働けよ)
小弥太は土間の隅から這い出て、うめき声の聞こえる穴を遠まわりしながら、外に出た。上から肥えでも引っ掛けてやろうかと思ったが、やめてやった。やつらにだって「肥えを引っ掛けられない《ケンリ》」くらいはあるだろう。
助けを呼びに、村の方へ走り出しながら、小弥太はケンリ、ケンリ、ケンリ、ケンリと繰り返し声に出した。すこし自分が強くなった気がした。
最初のコメントを投稿しよう!