第1章

9/10
前へ
/10ページ
次へ
そういえば、3人組が立っていたのは、小弥太が掘らされていた穴の上だった。小弥太の知らぬ間に、ふたがつけられて土がかけられていたが、先生はこんな仕掛けを用意していたのだ。 土煙の向こうで先生は、小弥太の耳になじみがある笑い声を立てていた。 「ハハハハハ! 私にお前らは殺す《権利》があるかどうかはわからんが、私の生きる《権利》はすこぶる強いのでな。死んでやらん」 首をこちらに向ける気配がした。 「その穴、存外に深い。底に泥もしいてある。助けが来るまでそうしていろ」 助けを呼びに行ってやれ、ということだな、と小弥太は解釈した。 先生の、優しい声がした。 「ではな。私はこれから存分に働く。生きていたらまた、だ」 ガタンと音がして、屋内が少し明るくなった。透かして見るとどうやら明り取りの窓に、人が通れるよう細工をしてあり、そこから先生は出て行ったようだ。 (またな、先生。今度はちったあ、働けよ) 小弥太は土間の隅から這い出て、うめき声の聞こえる穴を遠まわりしながら、外に出た。上から肥えでも引っ掛けてやろうかと思ったが、やめてやった。やつらにだって「肥えを引っ掛けられない《ケンリ》」くらいはあるだろう。 助けを呼びに、村の方へ走り出しながら、小弥太はケンリ、ケンリ、ケンリ、ケンリと繰り返し声に出した。すこし自分が強くなった気がした。     
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加