本文

22/23
545人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「日南子に触れたい」 真剣な表情。長い前髪から覗く、真っ直ぐで強い眼差し。 私は無意識に視線を下げて、大翔くんの薄くて形の綺麗な唇を見てしまった。 心臓がドクンと大きく跳ねて、私はそのまま弾け飛んでしまいそうだ。 「好きだよ」 そう言って、私の唇に温かくて柔らかいものを押し当てた。 窓の外は夕陽が沈みかけていて、藍色へと変化している。 空の低いところには、柔らかそうな綿雲がいくつも浮かび、そこに去り際の太陽の光が名残惜しそうに当たっていた。 ゆっくり離れていく顔と顔。 ほんの少しだけできた距離は、いまだに呼吸を忘れさせる。 「日南子の初めては、俺だけのものだ」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!