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それから、私はどこか現実感がないまま、大翔くんが日誌を書き終わるのを待った。
すっかり暗くなった通学路を並んで歩く。
私の右側だけ酸素が薄くて、そこに沈んだはずの太陽があるみたいに熱くて、とてもじゃないけど平静でいられない。
周りから見たら、何も変わらないのに、昨日までとは違ってしまった私たち。
誰よ。中野くんがこういうことしてくれるのは、いつになるやら、なんて言ったのは。
あっという間に初めてのキスをされちゃった。
そんなことを考えていた私の右手が、何かに包まれた。
「今日からここが、日南子の手の居場所な」
そう言われ、私の右手は大翔くんのコートのポケットの中に連れ去られてしまった。
狭い中で指と指が絡められる。
初めてキスをした日。
私たちは初めて手を繋いで、通学路を歩いた。
月の光に照らされた私たちの影。そこに、これまで二人の間にあった距離はなくなっている。
私はこの素敵な人に心を捕らえられて、もう逃げることはできなくなった。
*終*
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