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「ちょ、ちょっと待てっ
あ、明日!
一旦休憩して、明日にしよう、な?」
微笑む菊川には、俺の声なんて届いていないようだった。
俺が首を振って行為の継続を拒んでいるのだと示しても、覆いかぶさったまま退こうとしない。
俺の動きを目で追っているけど、その眼差しは甘い輝きを宿したまま。
俺は菊川の下から逃げるために、自力でそこから這出ようとしたんだが足が使いものにならず指先が二度三度とシーツの上を滑るだけだった。
両足に力を込めようとしているのに、その伝達がうまく行かない。
身体を動かそうとすると、さっきまで菊川が占領していた内壁が収縮してどうしようもなくグズグズ疼くんだ。
甘い痺れがそこからじんわりと広がって、両足を擦り合わせていないとその切なさに耐えられなくなる。
言葉とは裏腹に、両足を開いてねだりそうになるんだ。
しかも、菊川のノットに応えようと身体が強制的に熱を帯び出し涙で視界まで滲んできた。
番になるとは、こういうこと、こうなることだと頭では理解していた。
でも、でも、でもっ
初心者なんだよ、俺はっ
番相手の菊川に応えなきゃいけないのはわかってるし、菊川が求める限りこちらに拒否権なんてないのはわかってるけれど、今日は解放してほしい。
身も心も、一旦落ち着かせてくれっ
強烈な劣情を持て余し頼むからと涙目で懇願した俺は、ちゃんとそれを願えていなかったらしい。
「うん、休憩、終わり。
明日まで、する」
菊川は微笑みを崩さず、舌足らずな辿々しさで俺の望みと逆なことを口にしたから。
汚れたブレザーを脱ぎ捨て、首に引っ掻けていただけのネクタイを完全にはずすと菊川の恵まれた肉体が目の前にさらけ出される。
汗の滲んだ肌は一層肉食獣のような凄みまで纏い、菊川の牙が俺を喰らおうと迫ってくる。
捕食される側の俺に、選択肢なんて何一つ用意されているわけがなかった。
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