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『――あぁ、あなたは何一つ変わらない姿で』
――数年後。
母が亡くなってすぐ、僕は城を追われる身となった。
第一王妃だった母がいなくなったことで、第二王妃が僕の暗殺を企て始めたからだ。
父である王もこのことを知っていて、だけど立場上、公にはできなかったらしい。
僕は一人、城を出るほかなかった。
しかし、生まれて十年近く城から出たことがない僕が、従者もつけず、一人きりでどうやって安全に身を隠すことができようか。
……このときは逃げることに必死すぎて気がつかなかったが、今なら理解できる。
父は、僕を見捨てたのだ――と。
そのとき、ふと。
窓の外に現れたあの人のことを思い出した。
そして、あの人魚の話も。
「――逢いたいなぁ」
憧れていた、城の外。
だけど、食糧もなく、当てもなく。
暗い森の中を、喘ぎもがいて彷徨った。
光など見えない。
月も、星も。
僕の目の前には、闇しかなかった。
――はずだった。
「――おや、あなたは……」
「!」
懐かしい声に、足を止め振り返る。
暗がりに、緑の光が見えた。
「……なんと。これは、どういうことかしら」
近づいて、次第に夜目に映るその姿。
――あぁ、あなたは何一つ変わらない姿で。
僕は安堵して、その場で意識を失ったのだった。
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