6。邯鄲の夢

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 初めて香凜とセックスしたのは、五、六回目のセッションの時だった。行きがかり上というか、そういうムードになってしまった。ハマダさんはそうなることを予期していたのだろう。三回目のセッションから、カプセルに入ることを勧められた。カプセルは調整が終わったあとのいわば製品版のセッションに使用する。一般の客が使用するものだ。これなら外部からは完全に隔離される。万が一セックスの間に射精したとしても、スタッフの前で恥ずかしい思いをすることはない。たとえヴァーチャルな世界であっても、リアルであれば男と女の間にそのようなことは当然起こり得る。ハマダさんは、これまでにいろんな客を担当してきた経験で、僕と香凜にも近いうちにそのようなことが起こると予測したのかもしれない。  リアルな生活の中でなら、こういう気持ちにはならなかっただろう。頭の中の大部分は常に病床の香凜で占められていた。性欲を感じている余裕などなかった。だが、記憶の世界の中で、僕は現実の香凜を思い出すことなく、そこに現れた香凜と何度も愛し合うことができた。すべすべとした肌の感触、洗いたての髪の匂い、敏感なところに触れた時の反応、香凜の中に入っていく感覚、どれも現実のもののようだった。思考の中でそうだったように、ちゃんと射精もした。  セッションが終わった後、僕は激しい自己嫌悪に陥った。病床の香凜に対して申し訳ないと思った。よほど酷い顔をしていたのだろう。カプセルから出てきた僕の顔を見て、ハマダさんは言った。 「高木様、これは正常で当たり前の反応なのです。ご自分を責めてはいけません。お二人が深く愛し合っておられたからこそ、共有意識の中でこのようなことをが起こったのです。奥様はお怒りになりませんよ。逆にお喜びなされるはずです」  僕はハマダさんの前で、子供のように声を上げて泣いた。
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