6。邯鄲の夢

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 香凜が逝ってしまった後、僕は半年近くもメモリーバンクに足を向けることができなかった。葬式を終え、仕事にも復帰できた。少しずつ、ほんの少しずつだが、一人の生活は前に進み始めた。だが、香凜に会いに行くことだけはできなかった。  ハマダさんからはオフィスに顔を出すよう、何度も電話やメールがあったが、適当な理由をつけて断り続けた。覚悟はしていたとはいえ、香凜がいなくなってしまった事実を僕はやはり受け入れることができなかった。深過ぎる喪失感の中で香凜に会ったら、正気を保てる自信がなかった。いや、一度香凜に会ったら、その後の孤独感に耐えられないと思った。  真っ暗な迷路で、出口が見つけられないでいる子供のような感じだった。怯え、恐れ、絶望していた。いつか出口を照らす明かりは見つかるのだろうか。その時の僕には、全く分からなかった。
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