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7.友人の提案
「一度、セッション抜きでお会いいただけませんか。できれば会社の外で」
ハマダさんが剛志に電話をかけてきたのは、あの深刻な提案があってから一週間後の夜だった。部屋に一人でいると気が滅入るので、最近は誰かを誘って飲み歩くことが多かった。その夜は会社の同僚と居酒屋にいた。ハマダさんからの電話は、一次会がそろそろお開きになろうかという頃にかかってきた。剛志は着信にハマダさんの名前を見つけ、ロビーにでて電話を取った。
「夜分に申し訳ありません。今、よろしいでしょうか」
ハマダさんはいつもと同じく礼儀正しかった。そして、会社の外で会おうと伝えてきた。
「この前は唐突にあのような重要なことを申し上げてしまい、高木様を混乱させてしまったのではないかと…」
「充分に混乱させていただいていますよ」
剛志は嫌味を込めて言った。ハマダさんへの信頼は揺らいでいないが、多少頭にはきた。契約不履行という社会的な理由ではなく、楽しみが奪わる予感とでもいうべきか。気分が良い時に、突然面倒な仕事を言いつけられた時の憤懣に似ていた。だから、ハマダさんの声を聞いた瞬間、少し困らせてやりたい衝動にかられたのだった。
「本当に申し訳ありませんでした。ですが、あの提案は私なりに熟慮を重ねた上の結論でございます。高木様にはその真意をぜひともご理解いただきたくて、このように電話を差し上げた次第でございます」
それは分かっている。ハマダさんが思いつきであのような重大なことを口にするはずがない。
「それはこちらも願ったりです。ハマダさんの本当の考えが知りたい」
「それでは…」
「もちろん会いますよ。場所と時間を指定してください」
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