7.友人の提案

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 ハマダさんが指定してきたのは、いつも通っているメモリーバンクのオフィスからは山手線で反対側に位置する駅の近くにある小さなレストランだった。  剛志の勤務先からは二駅行ったところで、午後七時の待ち合わせには余裕で間に合った。十五分前に着いたのだが、ハマダさんは奥の個室で既に席についていた。何か飲みながら待っていればいいのに、テーブルの上には水の入ったコップが一つあるだけだった。四人で囲める丸いテーブルが大部分を占め、ひそひそ話でも聞こえそうなくらいに狭い部屋だったが、窮屈な印象はなく、逆に殺風景な感じすらした。壁に掛かっていたエッシャーの版画「物見の塔」のコピーが、そうさせていたのかもしれない。 「お呼びだてして申し訳ありませんでした」  ハマダさんは剛志がドアを開けると、すぐに立ち上がり深々と礼をした。 「そんなに、謝らないでください。何か理由があってハマダさんがあのようなことをおっしゃったことぐらい、僕にもちゃんと分かっています。長い付き合いですから。今日は客としてでなく、一人の人間、いや友人と呼んで構わないなら友人として、お話を伺いに来ました。だから、顔を上げてください」 「ありがとうございます」  そう言って、ハマダさんはまた頭を下げた。 「友人と呼んでいただき、本当にうれしゅうございます。お客様に対し大変失礼な物言いになりますが、今日お話しすることは、メモリーバンク社の社員としてではなく、高木様をよく知る一人の友人として忠告させていただきたいのでございます」 「本当にハマダさんは僕の周りにいる誰よりも僕のことを知っていますからね。過去も現在も」  ハマダさんは頷いた。 「まずは座りましょう。そして腹も空いた。お話は食事が済んでから、というのはどうでしょう」
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