8.コピー

2/4
75人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
「これは重大な契約違反であります。いや、契約以前に人間としてやってはならない行為です。心からお詫び致します」  ハマダさんはテーブルに頭をぶつけるくらい低頭した。コーヒーカップとスプーンがガチャンという音をたてた。 「頭を上げてください、ハマダさん。謝るためにここへきた訳じゃないでしょう。もっと詳しい話を聞かせてください」  ハマダさんの話はそのあと一時間近く続いた。その間、剛志はほとんど口を差し挟むことができなかった。そのくらいハマダさんは詳しく、分かりやすく、そして熱心に説明したのだった。 「個々人の思考パターンが千差万別なように、弊社に残された記憶データもまたひとつとして同じものはありません。その扱いは極めてセンシティブなものです。ちょっとしたニュアンスの処理を間違うと、現れる人格に違和感が生じることもあります。ですから、一人の記憶に関するチームのメンバーは、できるだけ固定化するように努力しています。最初から私がずっと高木様の担当を続けることができたのは、その方針のおかげです。高木様の場合、初めは通常のケースと同じく、一チームは五人で編成されておりました。しかし、年月を経て、扱う記憶量が増大するにつれ、その人数では対応が難しくなってきました。先程もお話ししましたように、高木様に満足していただけるよう、奥様の記憶と高木様の脳神経活動を可能な限り細部まで調整する必要があったからです。私はチームの増員を申し出ました。しかし、会社は余りいい顔はしませんでした。やはり技術者の人件費はばかになりませんから。私は何カ月にもわたってスタッフの増強を訴えました。そして、半年後にようやく一人の増員が認められたのです」 「その新しい人が…」 ハマダさんは首を振った。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!