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「彼は誠実な人間で、会社から特別な任務を言い渡された訳でもありません。問題は別にありました。会社のネットワークそのものが問題点だったのです。私どもが扱わせていただいている記憶は、全部で千二百人とちょっとです。管理するデータ量は膨大で、先程もお話し致しました通り一人ひとりへの対応がまちまちです。あるお年寄り、八十歳を超えた男性は、奥様に先立たれる際に申し込みされましたが、お会いに来られるのは年に一、二度、ほとんどが過去の記憶へのアクセスばかりです。高木様のように奥様と新たな記憶を共有したいとは希望されていません。奥様と過ごした何十年間を静かに振り返るだけです。また、別のお客様は、自らが不治の病に冒されたとき、自分がこの世に存在した証を残されようと決意されました。通常は契約された方の存命期間中のみ、記憶をお預かりしているのですが、その方との契約は少し変わっていました。自分の死後、生きた証を宇宙に残したいと望まれました。いずれその方の記憶データを収めたサーバーは、ロケットで星間飛行に出発されることでしょう。それまでの間、弊社がお預かりしているのです。この二例を見ただけでも、この事業の多様性がお分かりいただけることと思います。事業が輻輳的になればなるほど、メカニカルな部分でのシステムもまた複雑にならざるを得ません。我々はこれらの事業をスムーズに管理するために、高度なネットワークシステムを構築しました」 「それが問題だったと…」 「はい、その通りです。以前もお話し致しましたように、弊社に記録されている思考や記憶のデータは、それ単体では意味をなしません。アクセスする方の脳がそれを再現するのです」 「ハマダさんは、それが究極のセキュリティーだとおっしゃいました。それが違ったのですか」
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