9.ハマダさんの決意

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9.ハマダさんの決意

 剛志にもやっとハマダさんの言っていることの意味が飲み込めてきた。そして、腹の底から真っ黒な怒りが湧き上がってくるのを抑えることができなかった。香凜が別の男たちに凌辱されたような気がした。握りしめた拳が震えた。 「お怒りはごもっともです。私も彼らの企みを知ったときは、我を忘れるくらいのショックをうけました」 「そして、彼らは何と…。香凜の記憶を弄んだことに何の罪悪感も持たなかったのですか」  ハマダさんが悪いのではないことは分かっていたが、怒りをぶつける相手は取り合えず目の前のハマダさんしかいなかった。 「彼らは悪びれることなく、私の指摘にも平然と答えました。『鍵穴を人間から機械に変えただけのことだ。オリジナルの人格は消去されているのだし、気にする必要はない』と。それは研究部門の責任者で、私と同期で入社したものの言葉です。彼は弊社のシステムの基幹部分の設計で功績を挙げた出世頭です。彼の言い分から推察するに、奥様をコピーすることは会社のトップも承認しています。だからこそ、社内規定違反も気にする必要がなかった」 「社内規定ではないでしょう。これは法律、いやモラルを大きく逸脱していると思いませんか、ハマダさん」 「申し訳ございません。高木様のおっしゃる通りです。彼らのやったことは、高木様のお気持ちを踏みにじる行為で、許されるはずのないことです。ただ、我々がお預かりした記憶の一部をコピーするという作業は、特に高木様の場合、我々は日常的に行っておりました」 「どういうことですか」 「例えば、この前のセッションで、高木様が出張で北海道に行かれました。奥様の思考パターンは、高木様お一人で思い出の場所に行かれたことに不快感を持たれました。その報告を受けた我々は、奥様と高木様が一緒に北海道を旅された記憶に関連付けて、高木様が今回行かれた旅行の記憶を付加致しました。そうすることで、高木様の旅の記憶は奥様と共有されたのです。ご存知の通り、この作業はとてもデリケートで難しさを伴います。これまで何度も失敗しております」
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