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10.たくらみ
「確かに勝手に香凜や僕の記憶をコピーし、改変することは契約違反です。会社組織の中でそれを正すのが難しいのも分かります。でも、どうして破壊というところまでいかなければならないのですか。何か別の方法はないのですか」
僕は食い下がった。ハマダさんの苦悩の表情がより一層深くなった。
「このことを伝えると、高木様を深く傷つけてしまうことと思いますが」
ハマダさんはとても言いにくそうに話し出した。
「奥様の脳神経パターンを基にした製品は、完成までもう少しの段階まで進んでおります。間もなく発表され、出荷されることになるでしょう」
「勝手に人の記憶をいじって、それで金儲けという訳ですか。とんでもない話だ」
剛志は憤慨した。ハマダさんは悲痛な面持ちをした。
「ですから、絶対に商品化は阻止したいのです」
「でも、どうしてハマダさんは…。会社の利益になることなのに」
「会社にはいろいろな考え方の人間がおります。少なくとも高木様の担当をさせていただいた私のグループは、お客様に喜んでいただけるサービスの提供に仕事の喜びを見い出しておりました。これはきれいごとではなく、偽らざる我々の心情です。ですから、今回の件につきましては、私どもは真剣に怒りましたし、会社に対して失望しました。特に、あのことを知ってからは、この計画を絶対に阻止しなければならないと、誓ったのです」
「あのこと…」
「商品の中身です。奥様のヴァーチャルな記憶パターンは、性風俗業界向けに販売されることになっています」
剛志は頭をがんと殴られた気がした。
「奥様の記憶は女性向けのサービスとして製品化されています」
「女性向け…」
「奥様の記憶は女性ですので、性的な記憶を女性の脳で再現することで、そのようなサービスが成立するのです」
「私たちの行為の記憶がサービス化されるというのですか」
ハマダさんは苦渋の表情を一層深くした。
「お二人はとても深く愛し合っておられました。記憶の中には、ヴァーチャルではないリアルな世界で、愛し合い、悦びあった記憶がたくさん残されていました。AI部門の連中はそのような悦びの記憶パターンを象徴化し、取り出すことに成功したようです」
「象徴化…」
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