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僕はつい1時間ほど前にハマダさんから伝えられた言葉をうまく理解できないまま、街を歩いていた。ハマダさんのオフィスから今いる駅まで、どのような経路で来たのか、まるで覚えていなかった。
ハマダさんの言葉は、香凜と濃密な時間を過ごした直後にしては、余りにも唐突で冷酷な提案だった。
「もちろんお決めになるのは高木様ですが…」
ハマダさんは覚悟を決めたような話し方で、いきなり本題を切り出した。
「奥様とお会いになられるのは、もう終わりになされてはいかがかと、私は考えております。急に何を言い出すのだ、とお思いになられでしょう。もちろん契約に反することは承知致しております。お怒りになられても仕方ありません。私と致しましても、この様な残酷な提案をしなければならないのは辛うございます。ですが、仕事上の立場を超えて、高木様にとって最良の対応は何かを考えたとき、結論はただ一つでございました。これ以上、奥様にお会いなさることは、高木様のためになりません」
「どうしてですか? 七年近くも、うまくやってきたのに…」
僕の反論は哀願のようだった。
「長い時間が経った今でも香凜と会える時間は僕にとって何より重要で充実しています。それを突然、なぜ…。理由が知りたい」
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