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4.記憶移植
僕らはその場で仮契約をした。費用は僕の年収の五年分くらいだった。郊外に一戸建てを持つのと同じくらいの金額だ。契約期間は僕らが二人とも死んでしまうまでだそうだ。貯金をかき集め、残りは銀行を回ってローンで工面した。返済期間は三十年。
銀行の融資担当者の態度から推察するに、この種のローンを組むのに手慣れている様子だった。銀行にしてみれば、これは回収にリスクの少ないケースと言えた。守っていくものの中身を考えても、踏み倒す心配は極めて小さい。生命保険に入っていれば、パートナーの死亡後に保険金を返済に充てることもできる。
「ごめんね、変なお願いをして」
香凜は初めてハマダさんに会ったあと、素直に詫びた。だが、僕は逆に香凜の提案に感謝すらしていた。本人の受けた落胆や理不尽な怒り、疎外感に比べたら、僕が受けたショックなんて小さなものかもしれないが、それでもふとしたときに耐えきれないほどの孤独感が襲ってきて、何も手につかないときがしばしばあった。
香凜を失うことを僕は受け入れることができないでいた。そこで聞いたハマダさんの話。現実逃避と言われればそうかもしれない。だが、香凜も僕も、それに一縷の希望を見いだし、しがみつきたい気持ちになっていた。
「謝ることなんて全然ないさ」
「だって時間もお金も相当使わせてしまうし…。治療費だって嵩むのに」
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