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6。邯鄲の夢
「いかがでしたか」
ハマダさんは静かに聞いてきた。「最初のコンタクトにしては、若干長時間でしたので、お疲れになったでしょう」
「どのくらいコンタクトしていたんですか」
僕は軽い頭痛を覚えていた。根を詰めた単純な手作業を何時間も休みなく続けた後のような気分だった。ハマダさんはモニターを一瞥して言った。
「七分くらい、正確には六分三十七秒ですね」
「え、六分…。随分と長い時間、いろいろな記憶を辿った気がしたんだけど」
ハマダさんは小さく頷いた。
「人間の実際の動きに比べて、脳の活動はそれほど高速なのです。中国には、うたた寝している間に自分の一生の夢を見たが、その間に粟も茹であがっていなかったという物語があります。それはまさに脳の働きを言い当てています。寝ている間にみる夢も、フラッシュのような一瞬だという説もあります」
「では、今僕が体験した香凜との会話や思い出の追体験は夢のようなものだと…」
「夢も脳の活動によって起こる神経活動の一種ですから、似たようなものと言えるかもしれませんが、厳密には違います。夢は自分一人の脳神経の仕業ですが、今のセッションは高木様の脳と奥様の思考記録が共同作業で実現したものです」
「だからなのか…」
「何か不思議なことでも」
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