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「お恥ずかしい話ですが、高木様のセッションのデータをその部門の研究に利用した人間がおりました」 「えっ」  ハマダさんは俯いた。真面目な性格だから、顧客にこのような告白をするのに、随分勇気がいったことだろう。剛志は今突きつけられた問題よりも、まだハマダさんの心情の方に興味が向いていた。ことの重大性がすぐに理解できていなかったのだ。 「順を追ってお話し致しましょう。事の発端は、高木様をフォローしている我々のチームが作ったと言えます。単なる記憶の再現ではなく、新たな思考を付加するという試みが奴らの目に留まってしまいました」 「どういうことですか? それは御社の基本的なサービスではないのですか」  剛志は詰め寄った。段々とハマダさんの話している事柄が頭の中に入ってきた。会話という行為は、どうしてこんなに効率が悪いのだろう。香凜とのセッションなら、一瞬で互いの考えが理解できるのに。 「高木様のように、長期にわたって脳とマシンが思考を共有したケースはこれまでなかったのです。我々は高木様に満足のいく癒しを提供すべく、前例のない領域に自然と足を踏み入れるようになりました。そこからは脳とマシンの関係性において、貴重な知見が多々得られたました」 「余りいい気持ちはしませんね。僕が実験動物だったと宣告されているような気持ちです」 「信じていただきたいのは、我々のチームはそのような実験的な意図は全くありませんでした。ですが、結果として、AI研究部門の連中が興味を持つデータが相当量蓄積されてしまったのです。我々は高木様のセッションをより充実させるために、その経験値を活かしましたが、奴らは…」 「AIの開発に流用した…ということですか」  ハマダさんは黙って首を縦に振った。
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