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2.突然の提案
次にデートしたときの香凜は、朗らかで表情も生き生きとしていた。ハマダさんマジックがまたも炸裂したらしい。
「新しいお店のアイスも最高よね。どうして北海道で食べるとあんなに美味しく感じるんだろう」
「そりゃあ牛乳の原産地だからね」
「あのホテルも十年前のまま。時間が止まっていたみたいだったね」
香凜が言っているのは、函館市内のホテルのことだ。予約なしだったが、オフシーズンだったので、飛び込みでも部屋を取ることができたのだ。
「ベランダの露天風呂は良かったわよね。眺めも最高だったし」
「最初は入るのを嫌がったじゃないか」
「だって誰かに見られてる感じがしたんだもん。それにしても、あのときのお隣さんは凄かったよね。まさか露天風呂で始めちゃうなんて…」
「声も相当でかかったしね」
「二人でこっそり聞いちゃったわよね。盗み聞きしなくても自然に聞こえてきたけど」
「こっちが恥ずかしくなるくらい燃え上がってたからね」
剛志はあの夜のことを思い出していた。二人は隣のベランダから聞こえてくる嬌声に刺激されて、すぐに風呂をでて、身体もきちんと拭かないまま激しく愛し合ったのだ。
「何だか思い出しちゃうね」
香凜は微かに目を潤ませ、剛志のことをぼんやりと見ていた。
「ねえ…キスして」
剛志は無言で香凜を抱き寄せ、唇を重ねた。剛志は腰に回した手に力を入れ、香凜を強く抱き寄せた。
「本日はいかがだったでしょうか、高木様」
ロビーではいつものようにハマダさんが待っていた。剛志は予定を超えて三時間近くも部屋から出て来なかった。悪い時間を過ごしたはずがない。前回の修正点がきちんと成果を上げたことは、感想を聞くまでもなく明らかだ。心なしかハマダさんは勝ち誇ったような顔つきをしているように見えた。
「見事でした。久しぶりに満ち足りた時間が過ごせた気がします。ハマダさんのおかげです」
「お褒めいただき恐縮でございます。奥様の態度や言動に不自然なところはございませんでしたか」
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