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河村さよこという昔っぽい名前の女子と総一朗という男の子は学校の帰り道に約束した。河村さよこは小説が好きでよく読み、書いたりもしている。そのことを知った総一朗は「いつか、さよこの書いた小説みせてくれよな」と陽気に言った。河村は元気よくうん、と答えた。そんな思い出は彼らが小学校低学年のこと。高学年になると自然と男女別れて遊ぶようになり帰りも別々になってしまった。中学では同じクラスになることはなく、受験する高校が同じだと知ったのは友達との会話だった。
高校3年生になり同じクラスになった二人だが気まずく話しかけられないでいた。そんなときにさよこは衝撃的な噂を聞く。それは「総一朗はさよこが好きだ」というもとだった。しかし、さよこはもう一人いる。佐々木さよこ、スクールカーストでいうところの一軍だろう。今流行りのものを身につけ、いつも五、六人のグループではリーダーとして動いている。それに比べ、河村は三軍といったところだ。小柄で眼鏡を掛け、趣味も今流行りの物は何もなく、小説だけだった。そんなことで総一朗の好きな人の噂は自然と佐々木だろうとなっていた。河村は初めて噂を聞いたときは正直自分ではないかと思ったが、そんな妄想もひとしきりのものだった。ある日の昼休み、河村に総一朗は顔を向けて言った「放課後教室にいてくんねえかな」それをきいた河村は戸惑ったが、うん、と小さく答えた。どこか懐かしく感じた。
放課後の教室、佐々木と河村、総一朗のなんと三人。佐々木は自分は今から告白されると思っているので何故河村がいるか、疑問に思っていた。総一朗はそんな疑問を切り裂くように言う。
「クラスでさよこのことを俺が好きだって噂流れてるじゃん。勘違いされると悪いと思って。ほら同じ名前だからよ、だから二人呼んだ」
河村は自分ではないと理解したつもりだったが胸が苦しく、わかっていると口からでない。
「おれは昔から河村さよこが好きなんだ。勘違いさせて悪かった。照れ臭くて言えなかったんだ」
どうしてかと聞く佐々木を総一朗は口答する。自分のルックスとかで勝手に順位付けするのは無理だ、というセリフで佐々木は完全に動かなくなった。
河村は何がなんだかわからなかったが、うれしいの一言に尽きる表情だ。
その日の帰り道、昔話をしながら共にすると河村はとりあえず小説でも見せよう。それが最初の気持ちだった。
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