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こんな意味の分からない写真を作って、それを眺める男の姿はさぞ不気味だろう。思わず苦笑を浮かべながら机の引き出しを開ける。
引き出しの中には、大量の写真。全て同じ加工がされている。灰色、灰色、灰色――アルバムに保管するでもなく、剥き出しのまま乱雑に放り込まれている。もう一度、できたての加工写真をじっと見つめて同じように無造作に放り込んだ。
ずっと続けてきた事だが、いつもじゃない。
今日はそういう日なのだ。
「にいさん、にいさん」
どこかのんびりとした口調で二度繰り返す馴染みの呼びかけの後、思い出したように部屋のドアをノックする音。ドア越しのくぐもった声はどこか機嫌が良さそうだった。
「今行く。準備いいのか?」
返した言葉に、ばっちり、という返答があった。ばっちりなのだろう。引き出しを閉じて自身の身支度を確認する。Tシャツ一枚のジーンズという軽装、持ち物は財布とスマートフォンのみ。他に確認などするものもない。帽子があった方がいいんじゃないかと思うくらいだ。
ドアを開ければ声の主、妹の瑞穂が待ち構えている。白色のワンピース、長い髪は三つ編みにして麦わら帽子を被る涼しげな夏の出で立ち。暑そうなのはトレードマークの野暮ったいほど分厚い眼鏡だけだ。外は殺人的な日射とアブラゼミの大合唱。言うまでも無く夏真っ盛りである。
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