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私がいた中学から同じ高校へ行ったのは悠木くんだけだったから単純に帰りの時間がかぶることが多く、電車に揺られている間の暇つぶしにちょっとだけ話す程度。高校になるまで話したことは数える程度だったくらいだ。
それに話すといっても私が一方的に話しかけることが大半だった。悠木くんは口数が少ない人で、彼から話題を振ることはめったにない。
愛想はないが態度は意外と悪くない、そんな悠木くんは聞き役としてかなり優秀。だから私は暇つぶしに話しかける。知人と友人の間くらの関係。
***
葉奈とそんな会話をしたのが一昨日、土曜日のこと。
これまで意識したことがなかったといっても、あんな話をされたら少しはデマを気にしてしまうものだ。だから私は月曜となった今朝、地元の駅のホームで電車を待ちながら悠木くんと会いませんようにとひたすら願っていた。
いつもより早めに家を出ればいいだけなのだけれど、生活習慣というものは恐ろしい。三十分早く設定していたアラームを寝ぼけたまま止めてしまった私は、いつも起きる時間に自然と目覚めて急ぐべきか悩むという貴重な体験をしてしまった。
悠木君との間に何かがあったわけではないのに、この気まずさはなんだろう。挙動不審だと思われないよう、会ったとき何を話そうかと頭の中でちょっとだけシミュレーションをしてみる。が、その必要はなかったらしい。
今朝は通勤、通学ラッシュで混雑するホームで彼の姿を見つけることはなかった。
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