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「悠木くん早いね、どうしたの」
「バイト始めた」
「ふぅん」
「そっちこそ」
「ん?」
「早い」
悠木くんと一緒に帰りたくなかったからとは言えるはずもない。
「お母さんが早く帰ってきなさいって言うからさー」
とっさについた嘘だったが、悠木くんはとくに不審がることはなかったようで胸をなで下ろす。あれだけ気にしていたくせにいざ話してみれば普段通りの会話ができている、そんな自分に対しての安堵もあった。
それにしても、彼はいつの間に駅に着いていたのだろう。昇降口や校門付近では見かけなかったはずなのだけれど。
「そんな急いで学校出るくらいなら、もうすこし遅い時間にバイトのシフト入れればよかったのに」
そんな私の言葉に悠木くんが頭ひとつぶん上の位置からこちらを見おろし、首をかしげた。
「べつに……急いでないけど」
今度はこちらが首をかしげる番だった。
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