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「だって、私すごく急いで学校出たよ」
「近道がある」
「えっ、なにそれ知りたい。教えて」
それを知ることができれば今度こそ同時刻の下校を回避できるとかそういった考えではなくて、ただ興味がわいて私は少々前のめりに訊ねる。が、悠木くんはそのときホームに滑り込んで止まった電車に乗り込みながら、視線だけをこちらへと向けて予想外の返答を口にした。
「だめ」
また今度とか、気が向いたらとかいうよくあるあしらい方ではなく、明確な拒絶。
私はむっと唇をとがらせて悠木くんの背中を追うように電車に乗り込んだ。だめって、なにそれ。
無愛想で口数が少なくても、冷たい人ではなかったと思っていたのだけれど。それは私の勘違いだったのだろうか。
しつこく訪ねるのも嫌だし、だからといって知りたいことを教えてもらえなかった苛立ちは簡単に消えることはない。不機嫌を顔に出しながら腕組みをして窓の外を眺めている私の胸中では、こうした態度をとっていれば向こうが折れて教えてくれるんじゃないかって子供じみた考えがひっそりと存在していたりする。
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