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「ありがとう」
小声でお礼を言うと「押したの俺だし……」と歯切れの悪い返事をされて少し笑ってしまった。
「いつもより遅いね、寝坊したの?」
「うん」
「バイト疲れとか?」
「そんなとこ」
久しぶりにそんな会話で暇つぶしをする。悠木くんの肩越しに見えるさっきのサラリーマンがたまに睨んでくるものだから、気を紛らわせるのにちょうどよかった。
学校の最寄り駅に着き、だらだらと会話を続けながらホームから続く階段を降りる。以前と変わらない、大半が私から話題を振るだけの会話だ。
たった一週間とはいえずいぶんと久しぶりに感じて、この会話が私にとって心地良い部類のものだったと気付いた。
「なんのバイトしてるの」
「ラーメン屋」
「へえ、どこ?」
「……言わない」
「えーなんで」
「来る気でしょ」
「ばれたかぁ」
そんな中身のない会話がこれほど落ち着くものだとは知らなかった。勝手に不機嫌になって勝手に気まずくなって勝手に避けていたことを今更ながら申し訳なく思ってしまう。
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