0人が本棚に入れています
本棚に追加
階段の半ばにさしかかったところで、謝ろうと決意した。しかし、そのときふいに肩に強い衝撃があった。誰かが追い越しざまにぶつかってしまったのだ。
視界がななめに傾いていくのがやけにゆっくりと見えて、自分にぶつかったのが電車で舌打ちしてきたサラリーマンだと知っても、私は眼前に階段が迫るのをやけに冷静に見ていた。
「仲矢さん!」
腕を強く掴まれて、落下していた体と視界ががくんと止まる。一方で、ゆっくりと移ろっていた時間が一気に流れ出し、どっと冷や汗をかいた。
現実に追いつかない頭で、電車の中で掴まれたときは気付かなかったけれど悠木くんの手はこんなにしっかりしていたんだなどと考えながらのろのろと顔を上げる。
「悠木くん……」
無愛想な彼にしては珍しく焦った表情を浮かべていて少しどきりとしたのもつかの間、ぐいと引かれた私の体はたやすく悠木くんの腕に収まってしまう。
「怪我は」
「だ、大丈夫」
なんとか声を振り絞って返事をすると、頭の上で悠木くんが深く息を吐いた。
突然の出来事が立て続けに起こるものだから、私は何も考えられなくなってしまう。心臓がうるさいのは階段から落ちかけたからか、それとも――
最初のコメントを投稿しよう!