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健全なる社会
机上のマイクを調整してから、銀縁の眼鏡をかけた男は木製の椅子に腰掛けた。
男の後方には、警備員らしき背の高い男二人が制服を着込み、無表情のまま立っている。
銀縁眼鏡の男は首を左右に振り、細い目で、同じく腰掛けた男女を見渡す。
男からみて、左に男性が一人、右に女性が二人、並んで座っていた。
互いに目配せをし、皆の同意を得られたようで、男はマイクのスイッチを入れ、背筋を伸ばして声を出した。
「これより、尋問を始める」
宣言すると、男は正面に対峙して座る東風平凪彦に視線を向けた。
「参考人――トウフウヒラ……うん? なんと読むのだね、これは?」
「コチヒラナギヒコと読むのですが」
東風平はうんざりとした表情で答えた。
「なんて読みにくいペンネームだ。不親切極まりない」
男の方はなぜか東風平以上にうんざりという表情であった。
「それ、本名なんですがね」
「だったら改名したまえ」
(なんだと……)
東風平は思わず拳を握りしめていた。
本名がまともに読まれないのは慣れっこであったが、改名しろと言われたのは初めてだった。
第一、半ば脅迫的に人を呼びつけて起きながら、名前の読み方さえまともに知らないのはどういうことかと怒りを覚える。
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