第2話

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だって俺ら大学ん時付き合ってたもん。 望月の言葉が山びこのように脳内を木霊する。だんだんと小さくなっていき、最後消え入るように聞こえなくなるまでに随分と時間を要した。 つきあってた、って、どういう意味だ? そして何度も何度も反芻したはずの言葉は、ちっとも理解できていなかった。 「あ、疑ってる?」 「いえあの…え?」 「安心していいよ今はただのお友達だから。」 「はぁ…」 「まぁだから別に男同士だからとかは悩まなくていいと思うのよ。奏真美人だし意外と優しいしああ見えてズボラで抜けてるとこあってかわいいやつだからね、うんうん。」 「ズボラ…」 「本性が猛禽類なのはちょっと俺的にはいただけないけど。」 「もうき…え?」 「誰が猛禽類だ。」 ごとん、と少々荒っぽく置かれた皿は、グラタン皿。湯気がたっぷりたった、見るからにアツアツの出来立てである。香ばしい香りが立っているこんがり焼けたチーズが美味しそうだ。 たった今ナポリタンを平らげて満腹だったはずのお腹に、少し隙間が出来た気がした。 「猛禽類じゃん。集中すると目が獲物を前にした鷲そっくり!」 「若かったからな、俺も。」 「今でもだろ?そうだ秀一くん、今度見せてあげるよ大学ん時の猛禽類奏真!」 ケラケラと楽しそうに笑う望月とは対照的に、桜井の表情は少し面白くなさそうというか、バツが悪そうというか。望月の軽口も、桜井が本気で嫌がるボーダーラインをしっかり理解している。 二人の間に確固たる信頼関係があるのを目の当たりにして、秀一の心はスーッと冷えていった。 「…あの、俺帰ります。すいませんお会計…」 「え?あ、はい。こちらどうぞ。」 いつも長居していたせいか、ちょっと拍子抜けした様子の桜井に案内されて立ったレジ台。レジ台の中に入って行く桜井とすれ違った時に、僅かに鼻腔をくすぐったのは男物の香水だった。 普段香ることのないそれは、明らかに望月のものだった。
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