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ああ……私はつくづく鈍かったんだなぁと思った。緊張で震える手。私と同じように震える手。暖かくてちょっと強張っていて面白い。笑えてくる。同じじゃないか。11か月がなんだっけ。男と女がなんだっけ。お母さんの身長が……立ち上がって、ジュンイチと向かい合う。見上げなければ決して合わさらない目線。でも今は見上げても視線があうことはない。ジュンイチがこちらを向いてくれないから。身長差、どれくらいなんだろう。20?30センチはないよねたぶん……。
「え、178センチだけど……」
でかいなおい。ジュンイチを追い越すには30センチ物差しの上に登らないといけないのね……それは、なかなか難しいね。
だから私はこうする。このために一生懸命覚えたから。今使わないでいつ使うっていうんだろう。
ジュンイチの手を引いてベッドのほうへ誘導する。困惑が触れた肌を通して伝わってくる。不思議と熱さは感じない。たぶんどっちの体温もとても熱いからなんだろうね。
「えっ、ちょ……あ、アヤノ?」
慌てるジュンイチを引き寄せて──友人の言葉を思い出す。
『とりあえずあんたに投げ技は無理だわ。センスがない力もない胸もない』
おのれゴリラ許すまじ。怒りを力に変えるわけでもないけど、でもとりあえず習ってきたとおりにジュンイチの重心を崩すよう上半身に力を込める。30センチの身長のハンデ、体重だって力だって全然ジュンイチには届かない。でも、投げようと体を近づけたら、ぎゅって抱きしめるように密着したら。
ジュンイチの体から体重がなくなったように感じた。
ここだ!不安定な重心の足!狙うはふくらはぎの中心部!
私の足は鋭い鎌となり、ジュンイチの足を刈り取るのだ!
……ぽすんと。
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