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高槻さんのこの飄々とした性格に、私はいつも翻弄されている。
『自分』のことを小出しにして、でも正解はおあずけで。そんなことされたらどうしたって気になってしまう。
高槻さんのこの性格は言うなれば『罠』だ。
私はまんまとそれに嵌まってしまう。きっとこれから先もそうなんだろうなぁと結論づけるのは、多分もう早くはない。
「やっぱりこれでいいです」
私はもう一度先ほどのパスタを指さした。
「りょーかい。ドリンクバーは?」
「大丈夫です、お冷やだけで」
「そ? まぁ、無理強いはしないけど」
高槻さんはメニューを捲り一番後ろのページを開いた。
アイスやケーキなど、別腹が騒ぎ出しそうな、見るだけでも甘い匂いが漂ってきそうなページを高槻さんは私の前で開いた。
「こういうのは好きじゃない?」
「嫌い、じゃないですけど……」
「俺、コーヒーゼリーでも食おうかなぁ」
どこか態とらしくそう呟いてから、高槻さんはとある箇所を指さした。
「マキちゃんこういうの好きじゃなかった?」
「好きですけど」
「お腹いっぱいなのでいいです? ならいいけど、でも余裕があるなら食べて欲しいなぁ。俺が食ってる間待たせるのヤだし」
にんまりと口元に弧を浮かべ、高槻さんはコンコンと指先で数回同じ箇所をさす。季節限定のベリー系のケーキ。白い生クリームにピンク色のベリーソースがよく栄える。甘さと酸味が絶妙に合わさっているのだろう。そして、多分今想像している味よりもずっと美味しいに違いない。最近そういうのを食べてなかったせいで記憶の中の味が曖昧に霞んでいる。
「食べたくない?」
「……食べたいです」
「はい、よく言ってくれました」
高槻さんは一瞬優しげに微笑んでからベルを押した。
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