向けられない笑顔

2/2
前へ
/21ページ
次へ
「お前さぁ、もっと愛想よく出来ねーの?」 透吾は帰って行った客のテーブルを片付けながら、端のテーブルに座って携帯を触ってる那智に言った 「なんで、アンタに愛想よくしなきゃいけないの」 一瞬だけこちらを見て、またすぐに携帯を見る。 「んだよ・・・笑えばいいだけじゃん」 布巾でテーブルを拭きながら呟く。 「ブツブツ言ってないで、働けば?」 「・・・はいはい。」 (なんだよ・・・ムカつく女。) 俺は相沢透吾、17歳。高校2年で夏休みの間、この海の家でバイトする事になった。 その海の家は、近くの飲食店を経営する夫婦が夏場だけ営業していた。 そこでアイツに逢った。 春先ぐらいから家庭の事情とかで、この夫婦の元に居候してる姪っ子らしい。 第一印象は夏の海のイメージとは真逆な女の子。 まぁ、正直、かわいいと思った。 学校の群がってくる女の子たちとは違う感じがした 男に媚びてないと、いうか、上手く言えないけど何か違う感じがした けど、アイツは話しかける俺に、無視をキメてきた そして、たまに、口を開いたと思うと、 「うるさいんだけど?」 「邪魔」 と、散々だった。 それからというもの、俺達はケンカばかりしていた 内容はくだらないものだったけど。 「ダルク?なに?散歩行きたいの?」 那智の声が聞こえて自然とそちらを振り向く。 那智が連れてきたペットの「ダルク」ゴールデンレトリバーが那智にじゃれついている。 「!」 思わず、視線を外してしまった。 (くそ・・・反則だろ・・・その笑顔) けして、俺に向けられた笑顔ではない。 わかってる。 けど その瞬間、俺の中の全部、持ってかれた気分になった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加