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「ありがとーございましたぁ!」
昼のピークが過ぎて客も途切れてきた。
(おしっ!後少し!)
山積みの食器を洗っていると、客席から大きな音がした。
「那智ちゃん!!」
右足を抱える様に横たわってる那智。
「どーしたんすっか!」
「と、透吾君、いや、お客さんがつまづいて、そこのコンロにぶつかって、上にあった鍋が那智ちゃんの足に・・・」
那智の叔母である女将さんが慌てふためいていた。
サンダルの足が赤く腫れていく。
「早く冷やさないと!」
俺は駆け寄ると那智の足を取る。
「や,・・っ!」
勢いよく、手を払い退けられ俺はその場に尻もちをついた。
(え,・・?)
(俺、なんかしたか?)
那智の顔が火傷で歪むというより、恐怖、、、というか、、、カタカタと震えていたように見えた。
騒ぎを聞きつけたオーナーが出てきて、那智を抱えて厨房に下がった。
「な、なんだったんだ?」
「透吾君も大丈夫?」
「あ、ええ。平気っす。」
鍋をひっくり返してしまった客も謝罪して店を後にした。
わざとじゃないと女将さんも判断したみたいで、治療費などは断っていた。
「ゴメンね、透吾君」
雑巾がけしてる俺に女将さんが小声で話してきた。
「実はあの子、東京で色々あってねぇ。他人と上手く付き合えなくなっちゃって。」
思いがけなく知らされるアイツの事情。
「こっちに来てからも、誰とも関わらないでね、心配してたの。」
「はぁ。」
「でもね、透吾君がうちに来てくれるようになって、少し、、、少し変わったのよ。」
「ケンカしかしてないっすけどね。」
それから女将さんは、ふふふ、と笑うだけだった。
「那智ちゃん!大丈夫?」
しばらくして厨房から、オーナーに支えられながら氷で足を冷やして那智が出てきた。
「ゴメンね、叔母さん。」
「何いってんの!謝るのはこっちよ!」
「おい、起きたコトをとやかく言っても仕方ない。那智、もう家に戻っておけ。」
「はい、叔父さん。」
ヒョコヒョコと、歩いていく那智。
「あー、俺送ってきます、チャリあるし。」
「、、、でも、、ねぇ?」
女将さんがオーナーの方と那智を見てる。
「平気っす!いい考えあるので。」
この時の俺はきっと、ガキみたいにイタズラを考えて喜んでる顔がだったに違いない。
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