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「そこまで知っているとは、ただの顔見知りではないんだな」
ティセアの縄も解いた。
「あなたのお名前は」
ティセアが迷った。だが、いずれにしても魔導師に嘘など通用しない。きっと顔を上げた。
「わたしは、ラスタ・ファ・グルア自治州の領主キリオスの娘ティセアだ」
そうだ、イリン=エルン王の側室でも、グリエル将軍夫人でも、リュドヴィク王の囲い者でもない。ラスタ・ファ・グルアの戦姫だ。
リギルトがまさかと目を見開いた。
「ティセア様…だと?」
うなずくティセアの顔をしげしげと見た。失礼と言い、手を握った。
「もう一度お名前を」
おそらく、嘘を言っているかどうか調べるのだろう。
「ラスタ・ファ・グルア自治州領主キリオスの娘ティセア」
リギルトがほうとため息をついた。
「たしかにめったな方ではないと思ったが」
扉を開けて、外で待っていた部隊長に貴族の姫君なので、丁重にお世話するよう告げた。部隊長と兵士長があわてふためいている様子がわかった。
「大げさにしないでくれ」
ティセアが立ち上がって、戻ってきたリギルトに言った。
リギルトが胸に手を当ててお辞儀した。
「了解いたしました、姫君」
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