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第2回 イージェンと月光の戦姫《いくさひめ》(上)(1)
異端の襲撃を受けたウティレ=ユハニ王都から、辛くも逃げ出したティセアとルキアスは、翌日の昼、ようやく馬を止めて休むことにした。途中何度か停まったりはしたが、ほとんど走り続けで、馬も二人乗りの上かなり無理をさせたので、そうとう疲れていた。
「もう一頭買えないか。私は乗れるぞ」
ティセアが案を出した。ルキアスがさきほど近くに村があったので、譲ってもらうと、近くの林にティセアを残して向かった。湧き水の側だったので、馬に充分水を飲ませてやると、自分で足元の草を食んだ。少し曇ってきた。雨が降るかもと空を見上げた。
まもなくルキアスが戻ってきたが、空身だった。
「ここの村、廃村です」
おそらく『災厄』か、災害か、疫病か、もしくは戦乱などで村が滅んだのだろう。
「そうか、このままで国境までいけるか」
国境付近には関門の街がある。
「国境は、バランシェル湖の手前です。なんとか越えられれば」
後はバランシェル湖を越えて王都に向かえばいい。ルキアスが顔を赤くして下を向いた。
「それ…寝間着ですよね」
白絹の寝間着だ。言われて急に恥ずかしくなった。思わず肩を自分で抱いた。ルキアスが外套を外して、ティセアを包んだ。
「関門の街まで我慢してください」
幹道を通るのは難しい。もしかしたら、ガーランドからの派兵があるかもしれない。それに、どう見ても不審者だ。出くわして捕まったりしたくなかった。
少ししてからまた馬を駆った。夜まったくの暗闇なので動くことができず野営した。 小さな焚き火だけつけて、ルキアスが見張り番をした。
…こんなふうに…ふたりで逃げ回るようなことをしていると。
思い出される、イージェンと廃村から逃げたときのことを。
…イージェンに会えたら。
あのときのことを謝って、いつのまにかこんなことになっていたことを話そう。ルキアスの言うとおり、きっとわかってくれるはずだ。
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