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第3回 イージェンと月光の戦姫《いくさひめ》(上)(2)
ルキアスが出してきた手を握ったが、ルキアスも足元が危うく、引き摺られて一緒に崖を転がってしまった。少しして止まった。
「姫様…だいじょうぶですか…」
灯りを落としてしまった。消えればいいが、もし火が点いたりしたら火事になってしまう。あわてて探した。ティセアも周りを手探りした。
「ここにある」
ティセアが見つけて、蝋燭も拾った。ルキアスが受け取ろうとした掌が血で滲んでいた。小さな枝がけっこう深く刺さっていた。
「抜くぞ」
ティセアが指で摘んで、ぐっと引き抜いた。
「うっ!」
なかなか抜けなかった。なんとか抜けて、ルキアスが涙目でほうっとため息をついた。ティセアが舌で掌を舐めようとした。
「じ、自分でやりますっ!」
慌てて手を引っ込めて、自分で舐めた。ティセアが苦笑して、寝間着の袖口を引きちぎって、巻いてやった。
「湖に行ったら洗わないと」
灯りを付け直して湖畔に下りて行った。湖岸に腰を降ろし、荷物袋に入っていた水筒に少し水が残っていたので、一口づつ含んだ。
白々と明けて来て、薄赤く空が染まってきた頃、湖の中ごろに漁船の影が見えた。そこまで二カーセルから三カーセルありそうだった。
「俺、あの船に行って、渡してくれるよう頼んできます」
「あそこまで泳いでいくのか」
ティセアが呆れて湖上を見た。ルキアスがうなずいた。
「金を渡せばやってくれると思うので」
木の陰に隠れて待っていてくれと上着と長靴を脱いだ。金の袋をしっかりと腰に括りつけた。岸は細い葦草がたくさん生えていた。その間を掻き分けるようにして泳ぎ始めた。しばらく見ていたが、かなりの速さで危なげない泳ぎで進んでいた。たいしたものだと感心した。
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