第3回   イージェンと月光の戦姫《いくさひめ》(上)(2)

1/8
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/1072ページ

第3回   イージェンと月光の戦姫《いくさひめ》(上)(2)

 ルキアスが出してきた手を握ったが、ルキアスも足元が危うく、引き摺られて一緒に崖を転がってしまった。少しして止まった。 「姫様…だいじょうぶですか…」  灯りを落としてしまった。消えればいいが、もし火が点いたりしたら火事になってしまう。あわてて探した。ティセアも周りを手探りした。 「ここにある」  ティセアが見つけて、蝋燭も拾った。ルキアスが受け取ろうとした掌が血で滲んでいた。小さな枝がけっこう深く刺さっていた。 「抜くぞ」  ティセアが指で摘んで、ぐっと引き抜いた。 「うっ!」  なかなか抜けなかった。なんとか抜けて、ルキアスが涙目でほうっとため息をついた。ティセアが舌で掌を舐めようとした。 「じ、自分でやりますっ!」  慌てて手を引っ込めて、自分で舐めた。ティセアが苦笑して、寝間着の袖口を引きちぎって、巻いてやった。 「湖に行ったら洗わないと」  灯りを付け直して湖畔に下りて行った。湖岸に腰を降ろし、荷物袋に入っていた水筒に少し水が残っていたので、一口づつ含んだ。  白々と明けて来て、薄赤く空が染まってきた頃、湖の中ごろに漁船の影が見えた。そこまで二カーセルから三カーセルありそうだった。 「俺、あの船に行って、渡してくれるよう頼んできます」 「あそこまで泳いでいくのか」  ティセアが呆れて湖上を見た。ルキアスがうなずいた。 「金を渡せばやってくれると思うので」  木の陰に隠れて待っていてくれと上着と長靴を脱いだ。金の袋をしっかりと腰に括りつけた。岸は細い葦草がたくさん生えていた。その間を掻き分けるようにして泳ぎ始めた。しばらく見ていたが、かなりの速さで危なげない泳ぎで進んでいた。たいしたものだと感心した。
/1072ページ

最初のコメントを投稿しよう!