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第5回 イージェンと月光の戦姫《いくさひめ》(上)(4)
レスキリが少し膝で横に退くと、リュドヴィク王が片膝を付いた。深くお辞儀をして少し震えていたが、がばっと外套が浮き上がるほどの勢いで両手を地面に付けて額を押し付けた。
「過日の無礼の数々、お詫びいたします、どうか、ウティレ=ユハニの国と民に力をお貸し下さい!」
周囲も国王のこんな姿は初めて見た。驚きのあまり、固まっていた。最敬礼する国王の横に少し足を引きずった女が座り、同じように額をつけた。
「王妃アリーセです、大魔導師様、どうか、わが国にお力を…」
イージェンは腰を折り、両手でふたりの腕を取った。
「立ってくれ」
アリーセはすぐに女の魔導師が手を取り、支えた。
「王妃陛下は足を痛めたのか、具合はどうだ」
女の魔導師が、魔力で治療しているのでしばらく安静にすれば治ると思われると返事をした。
「気持ちは受け取った、休んでくれ」
アリーセがほっとした顔で下がっていった。
「陛下は怪我などしなかったのか」
リュドヴィク王がうなずいた。
「俺は大丈夫だが…」
大勢死んだと目をつぶり唇を噛んだ。レスキリが事前に国境砦襲撃を報せてくれたのに、うまく伝わらなかったとくやしそうに話した。
「ユリエンはどうしたんだ、怪我でもしたのか」
レスキリが話しにくそうに下を向いている。リュドヴィクが大きくため息をついた。
「アサン=グルア離宮の地下室で、探し物をしていたらしく、伝書を受け取るのが遅れ、こちらに来たのは襲撃の翌日昼すぎだった」
しかも来るなり、アサン=グルアに遷都するべきだと言い出して、リュドヴィク王と衝突したのだ。
「王都はここしかない。この無残なありさまを置いて、逃げるようなまねはできない」
すると、ユリエンは、怒ってアサン=グルアに戻ってしまったのである。
「三の大陸からの使者にも会わなければならないからと」
ランスの王女と従弟のカイルの縁談は、おそらく破談になるだろうがとため息をついた。
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