第6回   イージェンと月光の戦姫《いくさひめ》(下)(1)

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第6回   イージェンと月光の戦姫《いくさひめ》(下)(1)

 朝の光が宿屋の部屋の窓から差し込んでいた。ティセアは、数日ぶりにベッドで寝ることができて、疲れもすっかり取れていた。窓に寄り、大きく開いて、朝のさわやかな風を入れた。窓の下で座り込んでいるものがいた。 「…ルキアス?」  ルキアスがあわてて立ち上がり、戸惑った顔でお辞儀して走り去って行った。番兵もいたのに、一晩中見張ってくれていたのだ。 「ありがとう」  ふっと空を見上げた。よく晴れそうな空だった。  ルキアスは詰所に戻り、厨房で朝飯はいいと断って茶だけ貰った。 「おはよう、よく眠れたか」  あの兵士長が夜勤明けだと朝飯を貰っていた。 「いえ、姫様の見張りしてました」  番兵がいただろうと呆れたが、忠誠心に感心していた。兵士長の部屋で一緒に食べることになった。持ち帰りの料理をもっていき、兵士長にも勧めた。滅多に食べられない鹿の炙り肉、山鳥ののゆで卵、魚のチーズ焼き。 「ずいぶんと奮発したもんだな」  先日も湖に大魔導師の『空の船』というものが来たらしく、もてなそうと大変だったようだと話した。 「でも、もてなしは受けなかったのでは」  そのようだったと兵士長が首を折った。ふたりで料理をつまんだ。  兵士長は今回異端を警戒するために王都から派遣されてきた王立軍だった。 「俺はバウティスだ」  ふるさとはどこだと聞かれたので、ナルヴィク高地だと答えた。 「ナルヴィクか、俺はパリムだ」  パリムはナルヴィクの南側の地方だ。 「あちこち回されることが多くてな、なかなか落ち着けん」  食べ終えて茶を飲んでいると、兵士が指令書を持って来た。 「夕方まで休めそうだ」  これから寝ると手を振った。ルキアスも仮寝部屋に戻り、横になった。
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