鍵を開けると

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市内から電車で20分ほどの家の最寄駅から、さらに 歩いて12分の間、菅野 明枝は空から星でも降って来ないかなと現実離れした妄想を膨らませていた。明枝は毎日が豊かだった。だからこんな非現実的なことでしか日々に彩りを加えられない。彼氏、仕事、容姿、どれをとっても非の打ち所がなかった。今まで蹴落としてきた人たちには少しばかりの罪悪感はあるがそれに勝る優越感があった。。妄想が趣味とバレたら今の地位がなくなるような気がして、ペタペタと仮面をはめつづけている。それが今の自分だし、側から見える自分だと納得させている。 自宅の七階建のマンションに着き、エントランスを入って左側にあるエレベーターを待った。少しすると、上の階からエレベーターが降りてきて私はそれにのった。扉を閉めようとボタンを押すとき、近くで走ってくる音がしたので慌てて開けるボタンを押しその人を中に入れた。入ってきたのは30代前後と思われる主婦と5歳くらいの男の子だった。汗が滴り落ちて、息が上がっている中、「すみません」といった。明枝は七階のボタンを押してその主婦は二階のボタンを押した。少しにやけたが、男の子の方へとしゃがみ「お子さん可愛いですね」といった。ねっとりとしたその言葉に喜んだ主婦は「毎日大変なんですよ」と嬉しそうに答えたが、明枝には嫌味にしか聞こえなかった。
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