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「雨、止んだみたいだよ」
暫く談笑しながら漫画のことを語り合っていると、急に太陽が顔を出した。
「ねぇ、久しぶりにあの丘行かない? 海の見える」
「あ、それいいじゃん! 行こうよ!」
オレンジに染まる夕陽の笑顔に、私は目一杯の笑顔で答えた。
昔二人で、海に落ちる夕日を見た丘。泣いたり笑ったり、思い出は語りつくせないほどたくさんある。夕陽の後ろ姿。光の関係で黒い影しか見えなかった。いくつもの思い出が生まれた、私達の大切な場所。向かう途中は、やっぱり思い出話ばかりだった。
そして今、彼は何も言わずに海を眺めている。言いたい。自分の思いを、真っ正面からぶつけたい。でも、一度あんな風に言ってしまった私が、夕陽に何か言える権利などあるのだろうか。あんなに、私が今までずっと嫌いだと思っていた部分を受け入れたいと言ってくれたのに。彼が向き直って、私の方を見る。顏の半分だけが、夕日に照らされてオレンジに染まっている。
「夕陽って、綺麗な名前だよね」
ようやく喉から出てきた言の葉は、そんな陳腐なものだった。
「あの綺麗な光。でも、夕陽はあれより、もっと優しいよ」
思わず口から出た言葉に、私は驚愕した。全身が熱くなっていくのが、意識しなくても分かった。
「お前も優しいよ。いつも強がってて、何度も傷つきながら、それでも前を向こうとするところ」
涙は勝手に溢れた。それは止まることはなく、顔中を濡らしていった。
「返事、ずっと待ってた」
そう言って、夕陽は私を優しく抱きしめた。
水平線に差し掛かる陽に、私の涙を止めることはできなかった。
「七瀬。今度はちゃんと相合傘で帰ろうな」
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