雨上がりの夕陽

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 夕陽。  ガードレールに腰かけ、ポケットに手を突っ込んで、顔だけオレンジに光る空と海とに向けている。もの哀し気な瞳の奥に光るその鮮やかな色彩は、甘く、優しく、私の心を支配する。 「・・・・・」  どこまでも私の胸を苦しめるその表情、動作、佇まい。何か言おうとしても、整った横顔はそれを拒んでくる。沈むと同時に世界が終わるかのような儚い陽を、カモメの大群が横切る。横顔に何度か影が写り、両端がほんの少し下がった唇が、風にふかれてかすかに震えたような気がした。 「あれ、お前傘忘れたのかよ」  一年前。その日、朝の空は真っ青に輝いていた。前日は妹がジャニーズの特番だとか言ってテレビを独占していたために天気予報が見れなかったが、まず降ることはないだろうと思いながらも、折り畳みだけは鞄の奥にしまっていた。まさか夕方から深夜までゲリラ豪雨が続くとは知らずに。 ――傘、貸すよ  部活が終わった後に親友が下駄箱で灰色の空を見上げているのを見た時、どうしてもそうせずにはいられなかった。 ――え、ホント? やった、ありがと。やっぱり持つべきものはナナちゃんだね  もちろん、鞄の底から引っ張り出した折り畳みしか持っていないことなど、彼女が知る由もなかった。 「・・・・・うん」  突然の雨、当然生徒会の傘の貸し出しは既に終了。多少壊れていても良いので、校舎内に落ちていたり余っていたりする傘はないかとウロウロしていたところ、隣のクラスの彼と廊下でばったり遭遇した。 「んじゃ貸すよ。予備」 「え、いいよ、そんな」  私の言葉に関わらず投げ渡された折り畳みは、私が持っていたものよりも重かった。 「返すのはいつでもいいから」 「ねぇ」  礼も聞かずに私の横を立ち去ろうとする彼の腕を、反射的に掴んでいた。 「何?」 『最終下校時刻になりました。許可を得ていない生徒は、すみやかに下校しましょう・・・・・』 「いや・・・・・やっぱ何でもない」 「そう。じゃあな」  昔は「何でもない」と言うと、「絶対何かあるだろ」と探ってきた彼も、その時は黙ってスルーした。 「ありがと」  雨の音にも負ける消え入りそうな声は、十メートル離れた彼の背中にではなく、自分に言い聞かせているかのようで歯痒かった。
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