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教室に入って窓からぼんやりと生徒玄関を眺めていると、ほどなくして彼が飛び出してきた。滝のような雨が無防備な彼を打ちつける中で、守るように鞄を脇に抱え、必死に走っていた。その姿は普段サッカー部で見る彼とは違い、どこか青春の二文字を匂わせる色気があった。
「・・・・・」
制服を濡らして疾走する彼の前に借りた傘を落とそうとしたが、それより早く彼は通り過ぎてしまった。借りたものを二階から落とすという行為の失礼さに気づいて傘をきつく握りしめた時、心の中で何かが砕け散る音がして、目蓋の裏が熱くなった。
それがきっかけかと言われれば、そうでない気もする。だが少なくとも、四月に同じクラスになってからは、暇な時など彼から目が離せなくなり、目が合いそうになると慌てて逸らし、会話の時はその瞳を直視できなくなっていた。家でも多くの時間を彼に費やしている。初夏の頃はその事実を認めたくなくてしなかったが、今では研修旅行の集合写真や時には中学の卒業アルバムまでも引っ張り出して、彼の笑顔(時には真顔)を眺めている。
逆に言えば、眺めることしかできなかった。
「あ、夕陽」
今日こそはと校門で待ち伏せしたところ、運よく彼は独りだった。
「よ。あれ、お前今から帰り? 吹部の奴らは?」
校門を少し過ぎたところで振り返った彼に見下ろされ、胸が高鳴った。
「うん、トイレ行ってたら置いてかれちゃった」
本当はパート練習をこれのためだけに?の予定をでっちあげて抜けてきたなんて、絶対に言えない。
「そう。で、他に誰待ってたの?」
ある意味図星の指摘に、思わずたじろいだ。通り過ぎたところを後ろからアタックするというプランAは、校門をくぐる時点で気づかれないことが前提で、気づかれた上で素通りされるというパターンは予測していなかった。
「え? いや別に」
「じゃあどうして校門の前に突っ立ってたんだよ」
「いや、それは・・・・・その、もしかしたら、まだ来るかなーって思って、でも来ないからもう諦めよっかなって思ってたら、ちょうど夕陽がいたから」
ていうか、気づいてんなら声かけてよね・・・・・残念ながら、彼はそういうキャラではなかった。
「そう」
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