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彼はそれだけ言うと少し微笑み、無言で行こうとしたので、私は慌てて彼の隣に陣取った。
「ていうか、お前から下の名前で呼ばれるの久しぶりだわ」
「そ、そんなことないって」
急に恥ずかしくなってきて、斜め前のアスファルトとにらめっこ状態になってしまった。
「お前だと話の途中で停留所、なんてことがないから良いよな。話せる時間長いし。でもどうせ、思い出話に花咲かせて終わりだろうけど」
「良いよな」というその響きが脳裏に焼き付いたが、こっちだって思い出話だけしか武器がないわけではない。
「それよりさ、コンビニ寄らない? 新刊出るの今日だよね?」
「え? ・・・・・お前ヤンガー読んでんの?」
「ち、違うよ。レディース・ウェンズデー・・・・・だよ」
「え? マジで?」
「うん」
「ウソ、俺もなんだけど。え? 『サマーオンライン』とかのファン?」
「それもだけど、『平成忍法帖』とか『西武デパート異常なし』とかが好きかな」
「ホントに!? マジ!? 俺その二つのせいでレディウェンユーザーになったんだけど!? 知ってる人すら一人もいなかったのに!? お前もっと早く言えよ!!」
その時夕陽の見せたあからさまに幸せそうな表情が、どれだけ私の胸の奥を締めつけたことだろうか。
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