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「あのさ・・・・・俺、その・・・・・好き・・・・・なんだけど」
よくある青春ラブコメ漫画のシチュエーションの中でも、「幼馴染の男女は必ず小学生の頃、女子の方が強かった」というのは定番だが、私と夕陽もその例に漏れなかった。記憶は曖昧だが、砂場で夕陽が作ったトンネルを私が踏みつぶしたり、相撲大会で見事に上手投げを決められたりといった記録は、お母さんが編集したアルバムに残っていた。
今、彼との思い出を振り返る度に後悔と似た、でもそれとは少し違った感情が押し寄せてくる。ただ一つだけ、自分の行動に今でも自信を持てる出来事があった。しかしそれは、私が今までの人生で恐らく最も後悔している行動に直結していた。
小学六年の時、泳げなかった夕陽が近所のプールで誤って水深二メートルの域に足を踏み入れてしまい、溺れそうになっていた所を私が助けたのだ。夕陽の両親から何度もお礼を言われて、「私、人の命助けたんだ」と幸福感に浸っていながら、明日学校でクラス中にこの話を広めてやろう、と意気込んでいた。
「・・・・・?」
なので彼から校舎裏に呼び出された時、広められることが嫌で私に懇願してきたのだと思った。単刀直入に言われた時も、思考回路はそこから抜け出せなかった。
「あ、好きな人いるから昨日のこと広められたくないの? だったら、その人教えてよ。絶対言わないから。替わりに昨日のこと黙っててあげる」
交換条件や秘密の取引(この場合彼の秘密を二つ握ることになる)のようで、内心とてもワクワクしていた。
「・・・・・いいよ。もう好きな人は昨日のこと知ってるから」
彼はムッとしてボソボソと呟いた。
「だから大丈夫だって。私まだ誰にも言ってないから。秘密は守るよ」
幼馴染の好きな人の情報も得られて一石二鳥! なんて思っていた当時の自分に、今の自分は呆れる。いくら小学生とはいえ、鈍感すぎだった。
「だからちげーよ! 別にそれくらいバラしてもいいよ!」
「ハハハ。前から思ってたけど、夕陽ってかなりMだよね?」
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