雨上がりの夕陽

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 流石に彼が憤るのも、無理はなかった。 「フン! もういいよ。どうせ俺なんて、お前にとってはただの弱虫でしかないんだろ? いいよ。弱いヤツ助けて優越感に浸って、そいつのことからかって楽しむんだろ! そんなの、強い人間のすることじゃねぇよ!!」  頭に血が上った。彼の言ったことが図星で、私はそれに抗おうとした。 「は? 助けてもらって、何その態度? まずはありがとうでしょ? 溺れそうになってたのに。もう一回沈めてやろうか? もう助けてやんないからな。バカじゃねぇの? まぁでもこれからもどうせ私に世話になるんだろうけど」  彼は俯いて黙りこくった。「ひるんだか。喧嘩にも勝てない、軟弱なヤツ」と内心で彼を罵倒していた私が、本当は自分の弱い心を隠すために最低なことを言ったのだと気づいたのは、いつ頃だっただろうか。  彼はあからさまに語気を弱めた。 「お前のそういうとこ、嫌なんだよ。自分の立場を利用して、いつも上から目線で、周りの人を見下ろす感じ。でもお前の、そうやって強がってるところ」  夕陽は私の目を見た。その瞳に、一瞬だけ身体の自由を奪われた。 「たぶん、女っぽい。何か大切な人を守る人間の性格。それ、いろんなこと一人で溜めこんじゃいそう。お前のそういうとこ、全部守りたい」  今度は私が俯く番だった。足下に転がっている小指ほどの石を凝視しながら、言うな、言うなと念じ続けていた。手が汗ばんできていて、髪の毛が頬に当たる感覚が気持ち悪かった。 「好きです」  何から何までが初めてだった。私が目を背けてきた自分を優しく照らしてくれて、それを「女っぽい」「守りたい」と言ってくれた。そのありがたさに気づくのがあと五年早ければ、私はこんな思いをせずに済んだのに。 「何それ? からかってるのはアンタの方じゃん。あんな偉そうなこと言っといて、なんだよそれ」  気づいたら視界は歪み、自然に頬が濡れていた。 「勝手にぶつかっておいて、何なのいったい? ただの自己満足じゃん。もういい加減にしてよ。アンタなんか大っ嫌いだから!!」  口から出ていたのは、思っていることと真逆な言葉ばかりだった。困惑していたのも事実だが、一度燃え上がってしまった火を消すのは至難の業だった。 「もういい! アンタなんか! ・・・・・アンタなんか、もう・・・・・」
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